医療者の考える軽症と実際一般の人が考える軽症は大きく差があります。
明確な定義はありませんが、現役医師目線での軽症、中等症、重症の違いをお伝えします。
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軽症は本当に「軽」症?
軽症とは呼んで字のごとく軽い症状ということです。
救急車の要請を受け、救急患者が運び込まれたときに重症度をその場で判断し、救急隊の記録にチェックをすることがあります。
その分類は「軽症」「中等症」「重症」に分けられます。
その基準を医師はどう判断しているのでしょうか。
簡単に言うと
- 「軽症」:入院の必要はなく、自宅で数日様子を見られる。
- 「中等症」:酸素投与や点滴の治療が必要で入院が必須である。入院していれば1日くらいは様子を見られる。
- 「重症」:今すぐ何等かの処置(手術、薬剤投与、人工呼吸器、人工透析など)をしないと数時間以内に死亡する可能性が非常に高い。ICUもしくはそれに準じた病棟へ入院し、細かい観察と治療が必要である。
となります。
では具体的に言いましょう。
入院する必要が必ずしもないものは全て「軽症」です。
例えば40℃の発熱が連日あっても解熱剤で熱が下がり、その間に何とか水さえ飲めれば自宅で様子を見ることができます。
毎日嘔吐や下痢を繰り返しても水さえ飲めれば自宅で様子が見られます。
血圧が200でも症状が無ければ自宅で様子を見ます。
中等症=入院適応となるのは
- バイタルサイン(血圧、脈拍、経皮的酸素飽和度)が崩れている
- 飲水ができない
簡単にはこの2つです。(もちろん例外はあります)
逆に言えばこの2つのどちらかを満たす場合は病院に行くしかありません。
その通りです。
実は中等症は「軽症の入院患者」とも言えるため入院患者を「軽症」と「重症」に分けると実際には「中等症」と「重症」に分けているのと同じです。
この「中等症」ですがかなり幅があります。
なぜなら
肺炎の場合、少しでも酸素が必要であれば入院が必要です。もちろん自宅で酸素を準備できる人はいませんよね?(在宅酸素療法の方は別です)
酸素は1~10L/分で投与しますが重症であればあるほどその数値は高くなります。
酸素投与方法について
ここで酸素投与の方法について簡単に説明します。
酸素投与方法には鼻カヌラ、マスク、リザーバーマスクの3種類があります。
もちろん病院や担当医師により若干の違いがありますが大体以下の酸素投与量となります。
鼻カヌラ:1-3L/分
マスク:4-7L/分
リザーバーマスク:8L/分以上
画像はアスクルよりお借りしました。
つまり鼻カヌラよりマスク、マスクよりリザーバーマスクをしている人の方が重症です。
鼻カヌラは在宅酸素療法で使用している方もいます。
たまに酸素ボンベを携帯して鼻カヌラをしている人がいるのを見たことあるかもしれません。
ですがニュースでの「重症」患者はリザーバーマスクの患者ではありません。
「重症」とは人工呼吸器、もしくはECMOに繋がっている患者さんを指します。
「軽症」の中にはマスクやリザーバーマスクを使用している人もいると思いますが決して40度の熱が1週間続く程度の本当の「軽症」に比べると段違いにつらいです。(40度の熱が1週間続くのも地獄ですが・・・)
経皮的酸素飽和度(SpO2)
酸素の量をどうやって決めるかというとSpO2(経皮的酸素飽和度)の値を見て調整します。
正常値は96-97%程度です。
指にはめるだけで簡単に測定が可能なので一般の方でも持っている人がいます。パルスオキシメーターと検索すればいくらでも出てきます。
もちろん肺炎になると肺がやられるのでこのSpO2が下がってきます。
この値が92%を切らないように酸素を投与して上げるのです。
ですがこの92%という数字ですが結構本人はきついのです。
もしパルスオキシメーターを持っている人であれば試してもらいたいのですが、息を止めるとSpO2を意図的に下げることができます。
92%になるまで息を止めて見て下さい。
自分もやったことがありますがめちゃくちゃ苦しいです。
1分くらいは最低息を止めないと下がってくれません。
この苦しみが肺炎になると延々続くと思うとその辛さは計り知れません。
重症患者はどんな治療をしているのか?
人工呼吸器
新型コロナウイルスには確立した治療法がありません。(アビガンやアクテムラが効くかもしれないので使用する場合はあります。これらについては別記事で)
なので自力で回復するまでの間酸素投与で補助してあげるのですが、リザーバーマスクでもSpO2が保てなくなった場合、人工呼吸器やECMO(人工心肺)などを使用する必要があります。
まず行うのは人工呼吸器です。
人工呼吸器とは全身麻酔をする手術をしたことがある人なら経験があるかもしれません。
気管という肺までの通り道に内径7.5mm程度のチューブを挿入します。
この手技は気管挿管と呼ばれ、医師なら誰でも一度はやったことがある手技の一つですが、何年(下手すると何十年)もやったことがない医師も多く、その場合失敗(時間がかかり脳にダメージ、誤って食道に挿管)などのリスクが高いためやはり慣れている医師によって行われるべきです。
アスクルHPより気管挿管チューブ
この挿管が終わればその後「人工呼吸器」につなげます。
人工呼吸器はいくつか「モード」がありますが、簡単に言えば一定の圧力で高濃度の酸素を気管挿管チューブに入れてくれるというものです。
もちろんSpO2を保つという点では「人工呼吸器」は優れていますが、合併症も多いです。
例えば肺炎です。
肺炎の治療での気管挿管ですが、逆に肺炎のリスクになります。
なぜならチューブを伝って口などのにいる細菌が気管に直接入ることができるからです。
肺炎のリスクの増大だけではありません、当たり前ですが声を出すことはできませんし、食事も胃に直接入れたチューブから行います。ベッドから一歩も動けないのでトイレはおむつと尿道カテーテルになりますし、喉がものすごく痛いので痛み止め(鎮痛薬)や眠り薬(鎮静薬)を常時使用します。その薬による副作用もあります。
慣れてくればテレビを見たりもできますが具合が悪い時はそれどころではないです。
ICUであれば24時間アラームの音や他の患者の対応への音もありなかなか休むこともできず、ICU症候群という 不眠、幻覚、妄想などの精神障害を発症することもあります。
ECMO(人工心肺)
そして不幸にも肺のダメージが大きすぎて人工呼吸器でもSpO2が保てなくなった場合はECMOを使用します。
もちろん人工呼吸器は使用し続けます。
ECMOは簡単に言うと太い静脈から血液を取り出し、酸素を与えてまた太い静脈に戻すというものです。
このとき血管に指す管(カテーテル)の太さは約7-8mm程度となります。ちなみに普通の点滴の太さは1mm強です。
それを足の付け根や首などに計2本留置します。
1分間に2-4Lもの血液を交換します。ちなみに体重60㎏の人で血液の量は4.6Lなので1分でほぼ全ての血液が機械の中を通ることになります。
もちろん合併症の多さは「人工呼吸器」よりも多いです。
まず出血です。ECMO導入中はフィルターが詰まったり、血栓(血の塊)ができることを避けるため血液をさらさらにする薬を入れます。
もちろん薬の量は慎重に調整しますがそれでも出血(消化管、気管、肺、穿刺部など)は頻発します。
他にも機械の異常(回路が詰まるなど)、感染症(血管内にカテーテルから直接皮膚の菌が侵入)、溶血(回路で赤血球が壊れる)など時には対処が非常に困難な合併症もあります。
どちらも簡単な治療ではない
読んでいただいてわかったと思いますが非常にこれらの治療は患者さんへの負担が大きいだけでなく、医療者への負担も大きいです。
いくら人工呼吸器やECMOの数が増えても、その機械を使用するには慣れた医師だけでなく、看護師さんや技師さんの力が必須(というよりコメディカルがいないと医師だけでは何もできない)です。
トレーニングを受けている医療従事者の数は機械を生産するよりもとても時間がかかるため今後人工呼吸器を必要とする患者が増えた場合自分は非常に不安です。
医療者のキャパを超えてしまえば合併症(機械トラブル含む)で亡くなるかたが急増する可能性もあります。
またコロナウイルス以外の人工呼吸器を必要とする患者さんが治療できなくなるリスクもあります。
現状では医療崩壊は近いと個人的に考えます。
重症は本当に重症!
おそらくニュースで重症とされている人は最低でも人工呼吸器を使用していことと思います。
脅かすわけではないですが人工呼吸器を使用した場合回復する可能性もありますが合併症や元々の肺炎で亡くなる可能性も非常に高くなります。ECMOを使用した場合はなおさらです。
軽症とされている方の中にもマスクやリザーバーマスクを使用している人はたくさんいることと思います。
これら軽症患者もいつ重症化するかわからず、軽症だからといって安心することは全くできません。
自分的にはニュースでもっと重症度などが具体的に伝えてくれればいいのにと思います。
個人情報はなしにしても持病の有無(程度)は教えていただきたいです。
結局持病といっても軽い高血圧・糖尿病から癌や自己免疫疾患まで様々で持病が無い人の中にはただ病院に行っていないため気づかれていない人などもいます。
我々医療従事者にもこういった情報が国から流れてこないのは非常に問題であり、検査の適応なども本来年齢や持病(基礎疾患)によって変えるべきなのです。
検査を軽症患者にするのは自分は反対ですが、基礎疾患の有無によっては症状が出づらい場合もあるので医師毎に自分の考えをもって検査や対応ができるようにもっと参考になる情報を教えていただきたいと感じています。
まとめ
軽症患者と言えども非常に危険な状態の患者はたくさんいることが予想されます。
みなさんが思っているより重症化している人は非常に厳しい経過を追っています。
健康な人でも重症化リスクが一定確率あるため本当に気を付けてください。
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