コロナウイルスが流行るようになり、胸が痛むので肺炎が心配で来たという患者様が目立つようになってきました。胸痛の原因は様々であり、ほとんどの場合コロナウイルスと関係がありません。この記事では内科医が胸痛を主訴(メインの訴え)でやってきた人に対しどういったアプローチをするか紹介します。またコロナウイルスと関連がある肺炎や胸膜炎に対して解説します。
あくまで一般的な例ですので心配であれば医療機関を受診するしかありません。当たり前ですが受診判断はご自身でしていただくしかありませんのでご了承下さい。
胸痛とは?
胸痛とは文字通り胸の痛みです。
ただこの胸痛はかなりいろいろな原因が考えられ、1回の病院受診や検査では原因がわからないこともしばしばあります。
ではまず胸痛と聞いて内科医は何に気を付けて問診したり検査をするか見ていきましょう。
まず問診をします。(明らかに様子がおかしかったり重症感がある場合はすぐ検査に行くこともあります)
問診は教科書的にOPQRSTにそって問診していきます。
O = Onset:発症様式
P = palliative / provocative:増悪・寛解因子
Q = quality/quantity:症状の性質・ひどさ
R = region/radiation:場所・放散の有無
S = associated symptom:随伴症状
T = time course:時間経過
細かい問診の内容や他に聞くことなどは長くなってしまうので割愛しますが、これらの情報からまず「緊急性があるかないか」を判断します。
緊急性がある場合はすぐに検査です。検査をするということはそれだけ気になる点があるということです。
緊急性があるかどうかの判断なども細かい話になりますのでここでは割愛させていただきます。
胸痛の原因は?
自分も持っていて参考にしているジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版 / 金城光代によると
胸痛の鑑別疾患(疑う病名)は以下の通りです。
- 肋軟骨炎
- 剣状突起痛
- 肋骨骨折
- 肋間神経痛
- 帯状疱疹
- 胸壁の筋肉痛
- ウイルス性胸膜炎
- 気胸
- 肺炎(胸膜に及ぶ)
- 逆流性食道炎
- 胆石症
- 心筋梗塞
- 急性大動脈解離
- 肺塞栓
- 心筋・心外膜炎
実際にはもっとたくさんの病名が考えられますし、この本にももう少し珍しい疾患名も入っていますが今回は分かりやすくするため割愛します。
ここを鑑別(区別)していくのが内科医の仕事です。
ここではわかりやすくするためにさらに分類していきます。
- 肋軟骨炎
- 剣状突起痛
- 肋骨骨折
- 肋間神経痛
- 帯状疱疹
- 胸壁の筋肉痛
⇒皮膚や筋肉、神経による胸痛
⇒帯状疱疹は抗ウイルス薬を使用するが他は痛み止めのみで自然軽快する。
- 胸膜炎
- 気胸
- 肺炎(胸膜に及ぶ)
- 逆流性食道炎
- 胆石症
⇒肺や胆のう、食道などがによる胸痛
⇒気胸や肺炎は場合によっては入院加療が必要。
⇒心臓や血管などが原因の胸痛
⇒場合によっては緊急手術が必要、基本重症です。
一般的に下に行けば行くほど緊急性が高いです。
実際の現場では下から順に疑わしいか調べていきます。
特に心臓や血管の病気を疑わせるようなエピソードがあればすぐ採血や心電図を施行します。
どのような時に緊急性が高いと判断するかは後述します。
一つ一つの病気を解説するとこれまたいくら時間があっても足りないため今回は黄色の肺炎、ウイルス性胸膜炎について解説します。
肺炎・胸膜炎ってなに?
肺炎ではこちらで説明しています。
コロナウイルス関連で胸痛が出るとすると肺炎か胸膜炎くらいでしょう。
厳密には肋間神経痛や筋肉痛、剣状突起痛などはコロナウイルス含めたい様々なウイルス感染で起きる可能性があります。ですが検査で診断が困難であり、自然軽快するのであまり問題になりません。
症状は臓器特異的なものと非臓器特異的なものがあります。
分かりやすくいうと肺炎であれば咳や痰は臓器特異的症状(肺や気管支がやられることで起きる症状)であり、発熱や全身倦怠感は非臓器特異的症状(肺炎が原因だが肺へのダメージによって起きる症状ではない)です。
肺炎でも胸が痛くなるときがあります。それは胸膜まで炎症が及ぶときです。
肺の周りの膜を胸膜といいます。
胸膜炎が起きると臓器特異的症状として胸痛が起きます。
胸膜炎による胸痛の特徴は呼吸や体動で痛みが出ることがあるということです。(胸膜が伸び縮みする時に痛みが出るので)
もちろん臓器非特異的症状として発熱や関節痛などが出ることもあります。
これがもし心臓や血管の病気であれば呼吸しようが動こうが痛みは持続します。こうやってどの臓器にダメージがありそうか推測していきます。もちろん例外があるので注意します。
つまり肺炎でも胸膜に炎症が及べば胸痛はありえます。
しかし肺炎がない胸膜炎はウイルス性であることが多く、大抵の場合自然に回復します。肺炎がない胸膜炎であれば胸部レントゲンでは異常が出ないことが多く、CTでは異常が見つかることも見つからないこともあります。
その場合胸膜炎かどうかは問診で総合的に判断することになります。
結局胸膜炎だけでは痛み止めで様子を見るだけであるため全身状態が良ければレントゲンやCTもしないことが多いです。
実は肋間神経痛なども呼吸で痛みが出たりします。画像(レントゲンやCT)で所見が無い場合は完全にどちらかを区別することは不可能です。ですがどちらも対症療法で経過観察なのであまり問題になりません。
胸痛があったら病院に行った方がいいの?
今までの結果をまとめると胸痛は緊急性の高いものから低いものまで多く、なかなか自分で判断するのは難しいです。
一般的に胸痛ですぐ病院を受診すべき症状は
・突然強い胸痛が出現する
⇒血管や心臓(+気胸)が原因の可能性があります。
・痛みが数十分持続している
⇒こちらも血管や心臓が原因の可能性があります。
・冷や汗や吐き気を伴う
⇒心筋梗塞では冷や汗や吐き気を伴うことが多いです。
・息切れや呼吸困難感を伴う
⇒心臓に問題がある場合や肺に問題がある可能性があります。
・胸部全体、肩や背中まで激痛がある
⇒血管が裂けていたり、心筋梗塞の可能性があります。
・皮膚にぶつぶつが出来ている
⇒帯状疱疹の可能性があります。帯状疱疹発症初期はぶつぶつがないこともあります。
逆に言えばこれら全てがない軽い胸痛の場合ほとんど安静のみで回復してしまいます。
コロナウイルス感染が流行っており、救急外来では発熱患者様が多く待っています。病院に行くことが現時点で最も高いリスクになるので不必要な受診はできるだけ控えたいところです。
さらに言えば心配なのでレントゲンを撮って欲しいという患者様もたくさんいますが胸痛でレントゲンを撮って診断がつくのは気胸や肺炎(胸膜炎を伴う)くらいのものです。
気胸は大抵かなり痛みが強く(持続的)、かなりの呼吸苦を伴います。しかも肺に基礎疾患があったり、やせ型の若い人にしか起こりづらいので疑わしいかは問診でかなり判断がつきます。
しかも軽症の肺炎はレントゲンでもわからないことが多いです。CTなら小さい変化もわかるかもしれませんが、軽度の胸痛患者全員にCTを行うのは感染リスクや医療資源の問題から好ましくありません。
コロナかもと思って保健所に電話したら近くの病院に行くように言われた
保健所が検査をしないと判定したということは軽症であると判断されたいうことです。
この場合結局近医を受診しても検査はやってもらえないことが多いです。
そして結局軽症の内に病院を受診しても解熱鎮痛薬をもらうだけなのでむしろ同じ待合室にいる発熱患者から感染したり、レントゲンや診察室の手すりに付着しているコロナウイルスを持ち帰る可能性が出ることの方がリスクです。
自分が発熱した場合もそうですが軽症の内は病院に行っても何もわからないことがほとんどなので自宅で解熱剤を飲んで安静にします。
通常5~7日以内に症状が改善してきますが、1週間以上発熱が持続したり、強い呼吸苦を伴う場合は受診を勧めます。その場合はほぼ必ずレントゲンを撮ってもらえるでしょう。場合によっては採血もするでしょう。
結局軽症であればコロナウイルスのPCR検査も偽陰性率が上がります。
結局検査をしても感度が低ければ信憑性が低いので何も安心できません。
これが軽症患者にむやみに検査を行わない理由の一つです。
難しい話ですがもちろんコロナウイルス患者への濃厚接触者や海外渡航歴がある人は検査前確率が上がるため普通の人より検査する価値が上がります。
まとめると軽症の内は家で待機するのが自分も周りの人間にとっても最善の方法です。
流行している都道府県ではすでにコロナウイルス陽性でも自宅待機が命じられますので無理に検査をするメリットはそこまで多くありません。検査数が限られる以上、より疑わしい人から検査すべきです。
もし自分が発熱した場合、自宅待機し、通常の風邪のコース(発熱のピークは発症2~3日後、その後症状が全体的に回復し、1週間でほぼ完治)から外れた場合に保健所に相談、医療機関を受診を考えます。(実際は医師なので検査を受けさせられると思いますが・・)
まとめ
胸痛の原因は様々で緊急性が高いものから勝手に治るものまで様々です。
緊急性が高そうなエピソードがある場合は救急での受診を勧めます。
ですが緊急性が低いような胸痛の場合、病院に行っても特に検査もせずに感染のリスクを背負うだけになる可能性もあるので一度考えて見て下さい。
そうは言っても素人(医療従事者でない人)で全て判断するのは難しいので心配であれば受診するしかありません。
受診する際はマスクをし、病院の扉や手すりを触ったら必ず手洗いをしましょう。
コメント