人生会議

名前はどうであれ人生会議と言う名の話合いは60代になれば必ずやっておきたい。
自分の親、祖父母でまだ話ができていないのであればできれば話す機会を作ろう。

人生会議とは?

お笑い芸人の小籔千豊さんがポスターになり、厚生労働省が作った人生会議のポスターに患者団体の方々等から、患者や遺族を傷つける内容であるといった意見が多数寄せられているとニュースで話題になりました。

人生会議という意味は

「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」

厚生労働省HPより

とされています。

ここでの人生会議は余命が数か月~数年であることがわかったとき、その間の治療やケアの方針、人生最後の時間をどこで過ごしたいかを考えることが大事と示されています。

ニュースでは自分がもしも余命宣告されたら何を大事にするか(家で過ごしたい、家族に迷惑かけたくない、つらい治療は受けたくないなど)を考えて意見を出し合っていました。

健康な時でさえ悩むのにもし自分の余命が少ないことがわかった時に冷静に考えられる人は少ないと思います。

そして辛い状況では正常な判断も難しくなるとともに衰弱して意思疎通ができなくなってしまえばもはや本人の意思を確認することは不可能になってしまいます。

そのため必ず健康な時、ゆっくりと考えられる時に人生会議をする必要があるのです。

急性期病院でも絶対必要な人生会議

自分は訪問診療・在宅医療に携わったことはありません。

しかし、急性期の病院で何人もの最期を看取ったことがあります。

ここからは自分の経験でのお話になります。

救急外来で救急患者を多数診てきましたが最期の時についてのお考えを患者様本人やご家族に聞くことがたくさんあります。

患者様やご家族の中には「もう以前から寝たきりになったら侵襲的(体に負担がかかる処置や治療)なことはしない」と家族内で意見を話合っている方もいれば、90過ぎてもそんなこと考えたこともありませんという方もいます。

急性期病院で高齢の方が入院した場合(経験がある方はわかると思いますが)、こうお話します。

「治療が上手くいかず、状態が悪化してしまった場合、人工呼吸器や心臓マッサージを希望しますか。」

これは治る可能性が高くても低くても同じようにお話します。

なぜこの2つの医療行為のことだけ取り上げるかと言うと、とても患者様本人やその家族に強い負担を強いる治療方法だからです。

人工呼吸器について

人工呼吸器は気管挿管といって全身麻酔の時と同じように管を肺(気管)に入れます。気管挿管や人工呼吸器を使うこと自体はそれほど難しくはありません。

しかしそれが外れる(抜管できる)かどうかは別の問題です。

人工呼吸器が必要なほど(つまり酸素マスクで酸素を使用しても呼吸が十分にできなくなるほど)肺や心臓が悪くなってしまった場合は高齢の方の場合、人工呼吸器を外すことが非常に困難になります。

例えば肺炎で人工呼吸器を使用した場合、抗生剤で菌をやっつけることができても他の臓器や肺自体にダメージが残ってしまえば人工呼吸器から離脱することができなくなります。

その場合本人は半分眠ったまま(はっきり起きていると管が入っててつらいため眠くなる薬を投与し続けます)、食事も会話もすることができず、ベッドに縛り付けられることになります。

しかも気管挿管をしていると口内の菌が管をつたって直接肺に入ることができるので肺炎にかかるリスクが跳ね上がります。

そのため肺炎を治療してもまた肺炎を繰り返し、全身がぼろぼろになるまで繰り返すことになります。

人工呼吸器を一度つけてしまい、それに依存してしまうとどんなに辛そうで見ていられなくても家族の同意だけで人工呼吸器を止めることは難しく、何もできず見守るしかありません。

これを本人が「たとえ辛くても自分は人工呼吸器につないでほしい」と言っていればまだ良いですが、認知症や本人と家族との事前の話合い(家族会議)が十分でない患者に『とりあえずどうすればいいかわからないから人工呼吸器を繋いでおく』というのは本人、家族、医療者にとって誰の得にもなりません。

ですので高齢になった場合は必ず人生会議をしておく必要があるのです。

心臓マッサージ

心臓マッサージも同様です。心臓マッサージは心臓が止まっても少しでも脳に血液を送ることを目的とします。

そのため肋骨が折れる勢い(やっている方は肋骨が折れる感触がわかります)でやる必要があります。

心臓マッサージで肺に穴が開いたり、折れた肋骨が肺にささることも珍しくありません。それでも脳が死んでしまうよりはマシなのです。

心臓マッサージを差し控えたいと医師から言われた場合、それは「心臓だけ動いても生命を維持することができない時は心臓マッサージはしません。」と言う意味合いが強いです。

それはなぜかというと心臓以外に問題があって(心臓でも慢性的な経過で)心臓が止まった場合は、たとえ心臓マッサージで心臓が再び動き出したとしても原因が解決されたわけではないためものの数分で再度心臓が止まってしまいます。その度肋骨を折る勢いで心臓マッサージをしていては胸はつぶれてしまいます。

心臓マッサージをしても数分しか心臓が動かないのであればこれは全く本人にとってメリットのない心臓マッサージとなってしまいます。

もちろん健康な人が突然不整脈になったり、心筋梗塞で心臓が止まった場合などは治療で回復する可能性があるので体に強い負担をかけても力強く心臓マッサージをする意味はあります。

医師としてみなさんに人生会議をしてほしい

このような理由のためこの人工呼吸器、心臓マッサージについては高齢の方の緊急入院の場合は必ず聞かれます。

聞かれてもどうしたいかできれば本人と共に話合ってほしいです。

医療関係者の家族がいる患者様は事前に話をしている場合が多いように感じます。

自分は本人が希望していない(認知症などで本人の意思が確認できない)場合は本人に強い負担のかかる医療行為(気管挿管、心臓マッサージ)は施行しないほうが良いと考えています。

どうしたらよいかわからない患者様のご家族にはあくまで自分の意見として話すこともあります。

病気というのは大抵突然なるものなので本人も家族 も準備ができていません。一度こういったことを考えたことがあるかないかで本人や家族の負担は大きく変わります。

救急外来では時間も十分にとれず、医師からの説明も不十分になることも多々あります。かといってたくさんの患者様が救急外来で待っている中で何十分も理解してもらうまで話をすることは物理的に難しいことをご理解下さい。

侵襲的な医療行為について少しでもみなさんが知ってもらうことで医療現場の負担が大分軽くなることでしょう。

この問題はいろいろな意見があるところだと思います。みなさんもこの機会に一度考えて見て下さい。

まとめ

人生会議は末期がんなどの終末期以外にも急性期での入院の際にもとても重要

健康なうちに家族で話をしておくことが大事

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